今回調査した裁判例の一部を掲載します。


東京地判昭和
39 928日(宴のあと事件第一審判決)

そしてここにいうような私生活の公開とは、公開されたところが必ずしもすべて真実でなければならないものではなく、一般の人が公開された内容をもつて当該私人の私生活であると誤認しても不合理でない程度に真実らしく受け取られるものであれば、それはなおプライバシーの侵害としてとらえることができるものと解すべきである。けだし、このような公開によつても当該私人の私生活とくに精神的平穏が害われることは、公開された内容が真実である場合とさしたる差異はないからである。むしろプライバシーの侵害は多くの場合、虚実がないまぜにされ、それが真実であるかのように受け取られることによつて発生することが予想されるが、ここで重要なことは公開されたところが客観的な事実に合致するかどうか、つまり真実か否かではなく、真実らしく思われることによつて当該私人が一般の好奇心の的になり、あるいは当該私人をめぐつてさまざまな揣摩臆測が生じるであろうことを自ら意識することによつて私人が受ける精神的な不安、負担ひいては苦痛にまで至るべきものが、法の容認し難い不当なものであるか否かという点にあるものと考えられるからである。

 そうであれば、右に論じたような趣旨でのプライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられるためには、公開された内容が(イ)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること、(ロ)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによつて心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること、(ハ)一般の人々に未だ知られていないことがらであることを必要とし、このような公開によつて当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とするが、公開されたところが当該私人の名誉、信用というような他の法益を侵害するものであることを要しないのは言うまでもない。すでに論じたようにプライバシーはこれらの法益とはその内容を異にするものだからである。

 

東京高判昭和52 715日(証拠能力)

もつとも、録音テープの存在については争いがなく、当審における控訴会社代表者本人尋問の結果(第一ないし第三回)から石上束らと岩井延幸との間の会話を録音したテープの内容を文章化したものと認められる〈証拠〉によれば、被控訴会社において控訴人の右申込みを承諾ないしは黙示的に了承したことを推認させるかのような事実を右石上が供述した部分がないでもない。そして被控訴人は右録音テープおよびこれを文章化した〈証拠〉はいずれも違法に収集されたもので証拠能力を有しない旨主張するところ、〈証拠〉を総合すると、控訴人は、本件につき第一審において敗訴判決を受けたのは、前記石上が控訴人に不利な供述をなしたことに起因するものと考え、これを不服として控訴申立てをする決意を固めていたが、代表者岩井延幸は、かねて被控訴会社人事課長植木和俊と幼少の頃から親交があつたことから、同訴外人を通じて右石上を酒席に招いて酒食を饗応したうえ同人から自己に有利な供述をなさしめてこれを秘かに録音テープにとろうと企て、控訴提起前である昭和四七年九月六日ころ、右植木を通じて石上に対し、自己の後援者である訴外森某に本件を有利に説明して欲しいなどと依頼し銀座の料亭「らん月」に招待し、右森をも同席させて石上らに酒食を饗応し、録音されていることを知らない同人らに本件の経緯について種々誘導的に質問して石上には単に諾否を答えさせるような方法で会話を交し、その間襖を隔てた隣室でこの問答を録音テープに収録し、これを当審における証拠とし、その取調べを求めるに至つたものである事実を認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。してみると、右各証拠は、供述者である石上らに不知の間収集録取された同訴外人らの供述を内容とする証拠というべきである。

 ところで民事訴訟法は、いわゆる証拠能力に関しては何ら規定するところがなく、当事者が挙証の用に供する証拠は、一般的に証拠価値はともかく、その証拠能力はこれを肯定すべきものと解すべきことはいうまでもないところであるが、その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によつて採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ないものというべきである。そして話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得ることは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定に当つては、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべきものと解するのが相当であり、これを本件についてみるに、右録音は、酒席における石上らの発言供述を、単に同人ら不知の間に録取したものであるにとどまり、いまだ同人らの人格権を著しく反社会的な手段方法で侵害したものということはできないから、右録音テープは、証拠能力を有するものと認めるべきである。

 そこで右録取にかかる石上の供述をとつてもつて控訴人主張の契約の成立を認める資料と評価し得るかどうかについて考えるに、右供述は、前認定のように岩井延幸からその後援者に自己の立場を有利に説明して欲しいとの要請をうけた石上らが酒食の饗応を受ける席上においてなされたものであつて、右岩井の誘導的発問に迎合的に行われた部分がないでもないと認められるので、右録音テープに録取された石上の供述部分はにわかに信用しがたいものがあり、そのほかの証拠資料をもつてしても控訴人主張の契約の成立を認めさせるには足りない。

 

東京地判平成28720日(証拠能力)

(1) 原告が被告の読者センターに対し、本件記事に関して電話で問合せをした際の本件担当者とのやり取りの内容について争いがあり、被告が提出する当該やり取りを録音した録音ファイル(乙1の1)について、原告は、秘密録音であって、改ざんもされているから、違法収集証拠であると主張する。

   ア しかし、仮に本件の録音が原告の明確な承諾を得ないでされたとしても、企業がお客様センター(被告の読者センターもこれに類するものといえる。)に対する架電内容を録音しているのは、顧客対応の必要性から見ても一般的なことであって、一般消費者としても容易に予想することができる。したがって、原告は、当該録音について、黙示的に承諾をしていると解することができるし、仮にかかる承諾がないとしても、当該秘密録音が著しく反社会的な手段を用いてされたとは認められず(東京高裁昭和52年7月15日判決・判時867号60頁参照)、違法収集証拠となるとする原告の主張は、採用することができない(なお、その他の録音ファイル(乙2の1、11の1、13の1)についても、これらが違法収集証拠に当たることを認めるに足りる事情は見受けられない。)。

   イ 次に、前記録音ファイルに改ざんがあるとの点について検討すると、原告の記憶と異なる内容が録音されているからといって、直ちに改ざんされているということはできない。原告は、改ざんを裏付ける証拠として本件担当者の発言を書き留めたメモ(甲13)を提出し、同メモには、「あなたバカじゃないのか」との原告の主張に沿う記載があるけれども、これも原告が本件担当者の発言を思い出して記載したものにすぎないと認められるから、直ちに信用することはできない(証拠(甲18)によれば、原告は、平成23年12月20日、双極性感情障害により病院を受診して以降、中断はあるものの通院を継続しており、医師からは同障害による被害念慮の症状もあると診断されていると認められるのであって、これが原告の記憶に影響している可能性も否定することができない。)。また、仮に被告が録音ファイルを改ざんするというのであれば、被告にとって有利な内容に改ざんするはずであるが、その内容を見ると、本件担当者が原告に対し、「頭おかしいんじゃないですか。」という不適切な発言をしたことが録音されており(当該発言について、法律的に違法性が認められるものであるか否かは後記(2)で検討する。)、かかる点から見ても、被告による改ざんがされたとは認め難い。

 したがって、原告と本件担当者のやり取りは、前記録音ファイル(乙1の1)に録音された別紙のとおりであると認められ、本件担当者は、原告に対し、「あなた、ちょっと頭おかしいんじゃないですか。」と言った事実が認められる(以下、当該発言を「本件発言」という。)。

 

東京地判平成27311

ア 認定事実

 原告は,被告に勤務していた際,被告の許可を得ずに被告との会話を秘密録音(会話の一方当事者が他方当事者の許可を得ずに会話の内容を録音すること)したり(乙1の2,1の10,2の1,4),被告とCとの会話を無断で録音している(乙1の4,23)。

   イ 検討

 (ア) 原告が被告との会話を秘密録音していたことについては,原告が被告からフェイスブックの改ざんをしたのではないかと問い詰められたり,第1解雇を告げられたりしている場面のことであり,秘密録音をすること自体不相当といえるか疑問である。また,被告も原告との会話を秘密録音しているようであり(乙2の2),原告の秘密録音のみを責めることはできない。また,上記(6)イのとおり,秘密録音をすることは相当ではないが,そのことだけから直ちに客観的に合理的な解雇理由になるとは認めがたく,原告が秘密録音した内容を必要性もなく第三者に公開するなどして,被告の信用を侵害したというような事情がなければ,客観的に合理的な解雇理由になるとはいいがたい。

 (イ) 原告が,無断で被告とCの会話を録音することについても,上記(6)イのとおり,正当性があるとは認めがたいが,無断で録音したことだけをもって,客観的に合理的な解雇理由になるとは認めがたく,原告が無断録音した内容を必要性もなく第三者に公開するなどして,被告の信用を侵害したというような事情がなければ,客観的に合理的な解雇理由になるとはいえない。

 (ウ) 以上からすると,解雇理由iについては,客観的に合理的な解雇理由になるとは認めがたい。

 

東京地判平成251224

2 争点2(違法性について)

 上記認定事実によれば,控訴人と被控訴人との間には業務の引継ぎ,過去の役員報酬額,貸金の返済方法等を巡って紛争が存在したことが窺えるが,そのことは,被控訴人が控訴人の承諾なく秘密録音行為を行うことを正当化するものではない。また,仮に,被控訴人の秘密録音行為が正当なものだったとしても,およそ本件暴行は控訴人が取り上げたクリアファイルを被控訴人が取り返す手段として相当なものであったということはできないから,被控訴人の権利又は法律上保護される利益を防衛するため「やむを得ず加害行為をした」もの(民法第720条第1項)と認めることはできない。その他,本件暴行の違法性を阻却するに足りる事情は見当たらない。したがって,被控訴人は控訴人に対し,本件暴行により控訴人が受けた損害について,不法行為に基づく損害賠償責任を免れない。

 3 争点(3)(控訴人の損害,過失相殺等)について

  (1) 控訴人は,被控訴人の秘密録音行為は正当な行為ではなく,控訴人は被控訴人の行為をたしなめるため,本件録音機を手にとっただけであるから,過失相殺すべきではない旨主張する。しかしながら,秘密録音行為が正当な行為ということができないとしても,そのことから,直ちに控訴人が被控訴人の承諾を得ることなく,本件録音機の入っていた被控訴人のクリアファイルを取り上げることが許されるわけではない。すなわち,本件全証拠によっても,秘密録音行為に気付いた控訴人がクリアファイルを手にとる前に被控訴人に対し録音を止めて本件録音機を提出するよう説得していた事実や,クリアファイルを手にとる前に控訴人の承諾を得ようとしていた事実は認められない。しかも,控訴人は,クリアファイルを手にとった後,被控訴人がクリアファイルを取り返そうとしたにもかかわらず,これに直ちに応ずることなく,かえって,席を離れ,クリアファイルを持ち替えるなどして被控訴人が取り戻そうとする行為を妨げようとしたこと,さらに,いったんクリアファイルを返した後も,今度は,被控訴人の鞄を取り上げ,被控訴人の退室を妨げようとしたことが認められる。本件において,このような控訴人の態度が,被控訴人による本件暴行を誘発したことを否定することはできない。しかるところ,不法行為による損害賠償の額を定めるにあたり,訴訟にあらわれた資料に基づいて被害者に過失があると認められるときは,裁判所は,民法第722条第2項の規定により,職権によりこれをしんしゃくすることができる(最高裁判所昭和39年(オ)第437号昭和41年6月21日第三小法廷判決民集20巻5号1078頁)。本件において,被控訴人の賠償すべき損害額を検討するに当たって,控訴人に過失相殺が適用されることは免れないというべきである。これに反する控訴人の主張は採用しない。

 

東京地判平成25925日(使用者責任「事業の執行につき」)

(2) 「事業の執行につき」とは,使用者の事業ないし被用者の職務の範囲内に属する行為,ないしは,その外形を備えている行為をいう。前記(1)アエオによれば,原告は,被告千葉支店のロッカー室において,直接の上司であった千葉支店長のCから,私服から事務服に着替える様子をビデオカメラで撮影される被害を受けたことが認められるが,Cの本件盗撮行為は,原告が着替えをする姿を見たいというCの欲望を満たす行為であって,事業上の必要性に基づくものではなく,その態様も,被告の業務用のビデオカメラを使用しているものの,原告に気づかれないよう隠匿したビデオカメラで隠し撮りをするというものであって,Cの職務上の権限や上司としての地位を利用したものともいえないから,土木建築業者である被告の事業の範囲ではなく,被用者であるCの職務の範囲内に属する行為でもなく,その外形を備える行為でもない。したがって,本件盗撮行為は「事業の執行につき」行われたと認めることはできない。

  (3) 原告は,本件盗撮行為は,被告本社により,原告の千葉支店内の言動を監視するようにとの業務命令を受け,防犯カメラを通じて原告を監視しているうち,原告の下着姿,着替えの姿を見たいと欲して,被告所有のビデオカメラを用いて行ったものであり,Cもこれに沿う供述をしている(甲2ないし4)から,「事業の執行につき」といえると主張する。

 確かに,前記(1)イの各事実によれば,被告は,原告によるDへの情報漏洩を疑っていたことは優に認められる。そうすると,被告本社から原告の行動に注意するよう指示を受けていた旨のCの供述(甲2ないし4,49,50)は信用できるもので,被告本社が,Cに対し,原告の千葉支店内の言動に注意するよう指示していた事実はこれを認めることができ,これを否定する被告の主張及び証拠(乙12,被告代表者)は採用できない。

 しかし,被告代表者らが情報漏洩の原因の探索をしたのは平成20年や平成22年ころであったから((1)イ),平成23年5月時点に至って原告のロッカー室での言動を秘密録音してまで採取する必要性は乏しい。したがって,「原告がロッカー室で情報漏洩をしていることを疑って,平成23年5月上旬にその音声を秘密録音した。」旨のCの供述(甲4)は,にわかに採用し難い。また,仮に,Cが,同月上旬にロッカー内の原告の言動を秘密録音しており,その秘密録音を契機として,ロッカー内の原告の着替えの姿を見たいと欲して本件盗撮行為に至ったとしても,ロッカー室の女性の着替えを盗撮する行為は秘密録音から自然の勢いで発展する行為とはいえず,時間的隔たりもあるから,本件盗撮行為が,会社の事業の執行行為と密接な関連を有する行為に当たると認めることはできない(最高裁判所第三小法廷昭和44年11月18日判決・民集23巻11号2079頁,最高裁判所第一小法廷昭和58年3月31日判決・判例時報1088号72頁参照)。

 したがって,Cが,原告の千葉支店内の言動を監視するという業務命令に基づき,原告の行動を注意していたとしても(また,仮に,同業務命令に基づき原告の音声を秘密録音していたとしても),本件盗撮行為は,これと密接な関連を有する行為とは認められないから,原告の主張は採用できない。

 

東京地判平成25723

(1) 原告は,①被告により不当に解雇された,②11月1日,同月2日及び同月4日の3回にわたり,被告代表者から脅迫又は恫喝された,③8月23日をはじめ,数回にわたり,訴外Bにより診察室等に長時間監禁され,あるいは電話により長時間にわたり詰問,恫喝された,等と主張し,これらによって精神疾患に罹患した旨主張する。

  (2) しかし,上記①については,権利濫用と評価された解雇権の行使が当然に不法行為となるわけではなく,あくまで,不法行為の成立要件を満たすことが前提であるところ,上記認定事実のとおりの経緯にかんがみれば,本件解雇自体を不法行為とみることはできない。

 また,上記②のうち11月1日のやりとりについては,原告による秘密録音及びその反訳(甲60及び61)を精査しても,被告代表者が原告を脅迫又は恫喝したと評価するに足りるやりとりは存在しない。11月4日についても,原告による秘密録音及びその反訳(甲62及び63)からは,被告代表者が,過度に防衛的になって受領書への署名すら拒む原告に対し,苛立ちを募らせ,言葉が荒くなっている事実を認めることができるものの,不法行為として評価すべき脅迫又は恫喝があったとはいえない(なお,原告は,11月4日のやりとりにおいて被告代表者が原告の座っている椅子を蹴り続けた旨主張し,原告本人尋問中にはそれに沿う部分があるが,音声データ〔甲60〕上,そのような事実をうかがわせる音は認められない。)。11月2日の出来事については,主張事実自体を認めるに足りる的確な証拠がない。

 上記③のうち,8月23日のやりとりについては,原告による秘密録音及びその反訳(甲58,59)により,訴外Bと原告とのやりとりの詳細を認めることができるところ,訴外Bは,40分余りにわたって,時に語気強く,時に原告の反論を制しつつその勤務態度や応答ぶりを論難しており,いささか執拗であることは否めない。しかし,訴外Bが原告に繰り返し求めているのは,「クレド(被告における企業理念)を守り,給与額や経験年数に応じた結果をきちんと出すこと」に尽きるのであって,使用者側が労働者に行う指導として何ら不合理な内容ではない。また,訴外Bの口調も,断定的かつ男性的な荒い口調で畳みかける箇所が散見されるものの,その多くは,自らに非はないと考えている原告の応答ぶりに苛立った一時的な反応であり,訴外Bが,原告に対し,延々と感情的に怒鳴り散らしたり,威圧的に恫喝したりした事実は認められない。8月23日以外の出来事については,主張事実自体に具体性がなく,採用の限りではない。

 なお,原告は,原告本人尋問において,被告代表者及び訴外Bが原告を「お前」と呼ぶことについて非常な嫌悪感を示しているが,本件全証拠を精査しても,被告代表者及び訴外Bが,原告の自尊心を傷つけようという意図の下に,故意に「お前」と呼び続けたものと評価することはできない。

 以上によれば,①ないし③はいずれも不法行為に該当するものとはいえず,他に原告の精神的不調と因果関係のある不法行為の存在を認めるに足りる証拠はないから,損害額について判断するまでもなく,原告の主張は理由がない。

 

東京地判平成2224

2 争点(1)(本件解雇の有効性)について

  (1) 前記1認定のとおり,原告は,被告からの再三にわたる注意・指導にもかかわらず,本件改善要望書,本件フィードバック文書,本件質問書,平成18年度人事考課票の記載に見られるように,被告の教育方針・活動方針に対する理解が十分でなく,確たる根拠もなく被告を誹謗中傷するなど,組織人として不適切と判断される態度をとることを繰り返したばかりか,執拗に文書の提示を求め,または録音を行おうとして円滑なフィードバックの実施を阻害したり,後援会費について,被告から事情を説明しているにもかかわらず,不正な経費処理がされたとして被告側関係者の謝罪を求めたり,学生に対する事情説明を求めながらもその日程調整に必ずしも協力的でなかったり,教授会議事録について独自の見解に基づいて改ざんがあると主張して訂正の要求だけでなく謝罪を求めたり,勤務時間中に被告キャンパス内で被告の許可を得ることなくビラを配布してY大ユニオンへの勧誘をしたりするなど,被告大学の円滑な業務遂行を阻害する行為や秩序に違反する行為を繰り返し,また,入試面接の無断欠勤,式典,教授会及び学部ミーティングへの欠席,休講・補講が多いなど学内業務への貢献・寄与が不十分であった。そして,匿名でインターネット上の本件掲示板に被告の名誉を毀損する内容の投稿をする行為は,瞬時にかつ不特定多数の者が当該投稿を容易に閲覧することができるために,被告の社会的評価を大きく低下させる蓋然性が高いものであるところ,原告がした本件各書込みのうち,「Y大の場合,管理経費をつぶさに洗っていくと必ず,何がしかの不正が暴かれます。」,「Y大はもはや文部科学省の継続的監視下におかれている『破綻法人』同然の大学なのだ。」などの記載は,これを真実と認めるべき相当の根拠も全くないのに,被告を誹謗中傷し,その名誉・信用を著しく毀損するものであり,これについて原告は何らの反省の情も示しておらず,かえって本件各書込みが正当であるとの言動に終始している。

 これらの原告の行為が,毎年度初めに学長から全教員に示される被告大学の活動方針及び重点事項等に相反するものであることは明らかであって,前記1認定のとおり,被告による再三にわたる注意・指導にもかかわらず,原告にはこれを改善しようとする姿勢や反省の態度も見受けられないことからすれば,原告が,教員資格内規のうち,准教授の要件である「本学の教育方針・内容を十分理解し,教育・教育研究・学内業務の各分野で積極的なリーダーシップを発揮できる者であること」,講師の要件である「本学の教育方針・内容を十分理解し,教育・教育研究・学内業務の各分野で本学に貢献できる者であること」,助教の要件である「本学の教育方針・内容を十分理解し,教育・教育研究・学内業務の各分野で本学に貢献すると期待できる者であること」のいずれをも充足しないとの被告の判定もやむを得ないというべきである。そして,前記1(10)認定のとおり,原告が被告から禁止されていたにもかかわらずフィードバックを秘密録音したり,上司・同僚との会話を秘密録音したり,その返却を求められながらも各教員の休講・補講届の写しを保有しこれに基づいて多分に各教員のプライバシーに係る部分をも書証化した上で別訴に提出したりするなどしたことから,原告と被告教職員との間の信頼関係はもはや失われていると認められ,このことをも併せ考えれば,被告には,本件就業規則75条(1)(2)(3)及び(7)所定の解雇事由が存在するというべきであり,また,前記で判示した諸事情を考慮すれば,本件解雇をしたことについては,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないとはいえないから,解雇権を濫用したものということはできない。

 結局,被告の原告に対する本件解雇は有効というべきである。

 なお,被告は,原告が担当していたゼミ生や父母からの評価が著しく低いことや元ゼミ生の陳述書の記載内容から原告の学生指導が不適切であった旨主張し,証拠(甲104,乙27,42,75,証人D)中には同主張に沿う部分もある。しかし,一部の学生や父母からの評価が芳しくないことや,元ゼミ生が作成した陳述書の記載内容が被告の授業態勢と齟齬するというだけで,原告による日常の学生指導が不適切であったと結論づけるのは合理的でなく,反対証拠(甲45,55~69,103,181)に照らしても被告の上記主張は直ちには採用できない。また,原告は,平成18年9月12日のFD授業改善勉強会を秘密録音しているものの(乙63),同勉強会が教員約70名が参加するものでその内容が開示されることを非とするものとまでは認定し難いから,これを被告との信頼関係を破壊する事由とみることはできない。

東京地判平成21113

(1) 原告は,その承諾なくして会話を録音され,プライバシー権を侵害された旨主張するところ,証拠(甲44,甲51,乙2,乙3)によれば,原告が被告及び東京都等を相手に提起した民事訴訟(当庁平成19年(ワ)第1536号損害賠償請求事件)において,東京都は,被告の職員から,原告との会話を録音したテープの任意提出を受け,これを声紋鑑定の資料とした事実を認めており,これに反する証拠はないから,被告が原告との会話を録音し,これを収録したテープを捜査機関に任意提出したことは認められる。

  (2) しかしながら,前提事実及び後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告法科大学院及びその教職員らは遅くとも平成17年6月ころから継続的ないたずら電話の被害にあっていたこと(乙20,乙21),原告は,平成16年6月ころから,被告法科大学院の指導等に不満や恨みを募らせ,事務局宛てに苦情や不満を訴えるにとどまらず,LSNに,被告法科大学院やB教授を中傷する内容の記事を掲載するなどし,被告法科大学院との対立を深めていたこと(前記第2の2(3)イ,同(4),弁論の全趣旨),原告がG教授の担当する「環境法務Ⅱ」で不合格となり,直ちに被告法科大学院に対し,成績評価異議申立てをしたが,修了判定結果を変更する必要はないとの回答を受けた平成18年3月17日ころからまもなくG教授の名を語るいたずら電話の被害が連続して発生していること(乙9の1ないし3,乙20,乙21,弁論の全趣旨)が認められ,これらの諸事情からすると,原告をいたずら電話の犯人と疑ったことがあながち根拠のないこととはいえない。

 そして,原告との会話の秘密録音は,原告の主張によっても,事務職員に対し修了認定及び成績発表の予定を尋ねた際の会話を,会話の相手方たる被告法科大学院の事務職員が録音したというにとどまること,現に録音された原告の発言内容についても一般人にとって特に公開を欲しないような内容を含むものであったことを認めるに足りる証拠はないこと,原告との会話を収録したテープは捜査機関に提供されたにとどまることをも考慮すると,原告との会話の秘密録音が社会生活上の受忍限度を超える違法なものであったとまでは認め難い。

 

東京地判平成151226日(証拠能力)

被告は、EはD教授の同意を得ることなく、D教授との会話内容を録音したものであって、かかる行為は違法であるからD教授とEとの会話の秘密録音の反訳書である甲2号証の証拠能力はないと主張するが、本件において、D教授の同意を得ていなかったものの、証拠能力を否定することまではできない。

 

千葉地判平成 3 329日(刑事事件の証拠能力)

二 秘密録音の適法性

 一般に、対話者の一方当事者が相手方の知らないうちに会話を録音しても、対話者との関係では会話の内容を相手方の支配に委ねて秘密性ないしプライバシーを放棄しており、また、他人と会話する以上相手方に対する信頼の誤算による危険は話者が負担すべきであるから、右のような秘密録音は違法ではなく、相手方に対する信義とモラルの問題に過ぎないという見方もできよう。

 しかし、それは、相手方が単に会話の内容を記憶にとどめ、その記憶に基づいて他に漏らす場合に妥当することであって、相手方が機械により正確に録音し、再生し、さらには話者(声質)の同一性の証拠として利用する可能性があることを知っておれば当然拒否することが予想されるところ、その拒否の機会を与えずに秘密録音することが相手方のプライバシーないし人格権を多かれ少なかれ侵害することは否定できず、いわんやこのような録音を刑事裁判の資料とすることは司法の廉潔性の観点からも慎重でなければならない。

 したがって、捜査機関が対話の相手方の知らないうちにその会話を録音することは、原則として違法であり、ただ録音の経緯、内容、目的、必要性、侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるべきものと解すべきである。

 これを本件について検討するに、録音の経緯、状況は前述のとおりであって、千葉県収用委員会委員等に対する電話による脅迫事件について、三里塚闘争会館において令状により適法に捜索差押をする際に、その事件の犯人が中核派の構成員である容疑が濃厚であり、同会館内には右構成員が在所していたことから、右事件に関連する証拠として被告人を含む中核派構成員の音声を録音する必要があったこと、被告人は相手方が警察官であること及び右捜索差押の被疑事実の概要を了知した上で警察官との会話に応じていること、その会話は捜索差押の立会いに関連することのみでプライバシーないし人格権にかかわるような内密性のある内容ではないこと、録音を担当した警察官らは捜索差押担当の警察官に対する被告人の会話を被告人に気付かれないようにその側で録音していただけで、被告人に強いて発言させるために何ら強制、偽計等の手段を用いていないことが認められる。

 以上の諸事情を総合すれば、被告人を含む中核派構成員らが本件犯行を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある上、本件録音の全過程に不当な点は認められず、また、被告人の法益を侵害する程度が低いのに比し、電話による脅迫という事件の特質から秘密録音(わが国では、いまだこれに関する明文の規定がない。)によらなければ有力証拠の収集が困難であるという公益上の必要性が高度であることなどにかんがみると、例外的に本件秘密録音を相当と認めて許容すべきであると解される。

  三 そうすると、本件録音は違法ではないから、各録音テープに証拠能力があることは明らかであり、弁護人の主張は理由がない。